二、歓迎祭

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「ここがタツシの住んでる家? へえ………………」 エリシアが俺の太ももを足先で二回つついて、身じろぎした。 "背中から降りたいから屈んで"と言いたいんだろうと、察してその通りにしてやる。 下僕の背中から降り立った主人たる少女。ズレた上着を直しながら、薄汚い建物全体を見回す。 「いい家ね」 結構よ。 口癖らしき言葉でそう評価して、門の前に立ち、片手を優雅に持ち上げた。 「ほら。……エスコートなさい」 嗜虐そうな薄い笑みを口元に、視線を絡ませてくるエリシア。 さっきまでの緩みきった態度を払拭して余りある、気品。不覚という程でもないがそう思わされつつ、俺はすぐには手を取らずに、我が家を見上げた。 今は二人で、――かつては三人で――共に暮らした場所。 我が家と呼べる、唯一の場所。 ――――そこに、俺は"吸血鬼"を招き入れようとしている。 いつ来るとも知れないマドルカスの襲撃を防ぐには、コイツの力を頼りにするしかなかったとはいえ……この状況。 命の危機に直結しかねない可能性を決して少なからずも孕んでいるこの化け物を、自分の領域の内へと望んで受け入れる。 やむを得ず、ならばせめて善かれと選びに選び抜いた最良の答えが――――この有り様だ。 (どこで、どう……間違えたんだかな) ・・・ ・・・・ 感情は、別にして。 今は、これが最善。それが現実。
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