三、不可能避

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その後。 室内に逃げ込んで来たエリシアに背中を土足で思いっきり足蹴にされ、俺は目を覚ました。 暴力の矛先が執拗に後背部だ。背中といっても広いもんだが的確に損傷部位を狙い打つ辺りに恣意を感じる。 エリシアはダウンジャケットを剥がされていたが、ヒラヒラしたルームウェアみたいな黒い着衣は辛うじて右肩がずり下がるに止まり、どうやら全裸にされる前に自力で逃れられたらしい。俺の胴にしがみついて、追ってきた藍を猫みたいに喉を鳴らして威嚇していた。 食欲を満たしてやれば(興味の対象が俺自身でない限り)大人しくできる藍を、俺は適当になだめすかしつつ、少し早い朝食の準備に取りかかり。 そして今に至る。 「ふーん…………成る程ね」 トーストを平らげ二枚目に手を伸ばした藍が、バターナイフ捌きの片手間に相槌を打つ。 「ふむふむ。お参りに行った後にきちんとお使いは済まして? しかしコンビニを出るとそこには交通事故寸前の美少女エリシアちゃんが! 身を呈してエリシアちゃんを救った出血多量のたつっちんは無傷の彼女を何故かおんぶして家まで連れ帰り? 頼まれた食料は飢えきった彼女に惜しまず与えた…………と。そゆ事?」 「ああうんそゆ事」 「ははあー、たつっちんったら、聖人君子の鑑のようだよ。姉さん嬉しい」 藍はまんべんなく塗り終えたバタートーストにかじり付きながらニッコリ笑い、俺は用意しておいた仏頂面を浮かべる。image=450000360.jpg
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