二、歓迎祭

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街灯と、霞みだした月明かりに照らされて、歩く道は薄暗く人気ない。 冬真っ只中の住宅街は、夜明け前という事もあって身を切るように冷え込んでいた。 「タツシ」 「……なんだ」 「脚が疲れたわ」 金髪赤眼黒衣の少女が俺の名前を呼び、通算七度、御遺憾な心情を言葉に乗せた。 廃工場を後にした直後は俺の前を歩いて急き立てていたはずが、さて五分保ったか保たなかったか、「寒いわ」「歩くのが速い」「まだ着かないの」と我が儘放題まるで自重しない少女。 俺が着ていた上着を黒衣の上から肩にかけ、いつのまにか俺の手首を握りしめていたコイツはどんどん歩く速度を落とし、進行を妨害する。その様は散歩コースの選択に不満を示す犬のようだ。 耐寒性能を半減させている俺は歯をかち合わせ、ウンザリしつつも少女の小言に付き合う。 「そうかよ。俺は背中が痛い」 「私を背負うのよタツシ」 「俺は背中が痛い」 少女が難聴を患っている可能性を考慮に入れ、でかい声で一度繰り返してみる。 立ち止まって横目に真後ろを振り返ると、それでだからどうしたの?みたいな言葉の理解に苦む表情を浮かべていた。成る程、耳じゃなくて頭か。 いろいろと抗うのを諦めて、膝を折る。こう見るとまるきり忠犬は俺の方だ。 そしてそれは間違っちゃいないんだろうな。 「重畳よ。下僕」 「そりゃ光栄だ。御主人様」 跪づく俺の背に体を預け、吸血鬼が微笑んだ。
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