三、不可能避

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その小部屋には先客が居た。 「なんだ、居たのか藍」 「こらっ。来るのが遅い」 意外っつーよりは甚だ奇っ怪だわな。思わず首をひねりたくなる。 着いて来いやら手伝えやら、俺に一言も言っちゃいねーってのに理不尽なこの言い草。 それはいつもの事だとして――。 「怒んなや。つか、別に助けに来なくてもよかったみてーじゃねえか」 顎で示した先にはお目当ての布団が、既に押し入れから出されて準備されていた。 タオルケットに毛布が充分過ぎるくらい重ねてある。シーツも新しめのやつを選んでちゃんと被せてんな。 やればできんじゃねーか。こりゃ朗報だ。とうに見限ってたが家事を仕込む余地くらいはこの廃人にも残されていたらしい。 収納場所も知ってたし、放っておいても構やしなかったって事か。 ――で? 用事をとっくに済まして、お前なんで俺を待ち構えたりしたんだ。 「なに言ってんの。さっき伝えたじゃんさ? "詳しい事情は後で"って」 「…………ああ。そういう事」 "後で"って表現がそぐう程、時間を挟んじゃいねえとは思うが。 いやそれですら遅いっつわれちまうんだから、性急どころじゃねえぞこの女。 「もうあの場で話しゃよかっただろが……」 「それじゃダメ。あの場に居たら……たつっちん嘘しか言わないじゃん」
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