三、不可能避

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「あの子がアパートを追い出された時の事情はいいや。そこまで、うん、立ち入らない。――――――――――――ただ持ち物が一つも無いって、じゃあパスポートは? ビザは? 長期滞在なら区分は労働か留学かな? あの年で出稼ぎはないだろうし、学業目的か。なら通ってる学校の支援が有るんじゃないかな? ねえ? 達者だよね日本語。その割に家にあがって靴を脱がないほど日本の文化に対して無知なのは一体どういう事? あの娘は、本当にたったの数日でも日本で暮らしていたの? あの娘は、あの娘は……――」 「………………」 勢いに乗せて藍が今挙げたのは、どれも突かれちゃマズイ部分。 エリシアの姿を初めて確認した一瞬でそこまで看破して、あえて探りを入れるために数々の奇行に及んだのか。コイツは。 だがこれはまだ"一般的な意味のマズさ"。本当の意味で致命的ではない。 しかし、それもここまでだった。 「……さっきエリシアちゃんと組み合った時さ、私、最初こそ加減したけど、あとは本気だったんだよね。もう、本気も本気。で……その結果がコレ」 おもむろに右手を持ち上げ、肘まで長袖を捲った藍。 あらわになった手首が、 「…………!!!」 幼子ほどの細かい手形で、くり抜いたように、ドス黒く変色していた。
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