三、不可能避

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      ・ 「指を取って腕を極める関節技。組み技。道場のおじさまに、余興で見せてもらった合気道の真似事もした。"弱者"が生き抜くための"技術"を―――生まれて初めて容赦なんて無しにつぎ込んで、正真正銘全身全霊で立ち合った私を……あの子は華奢な腕二本だけで、本当にただ腕力だけで、受け止めた」 藍は死人のものみたいになった自分の腕をぼーっと眺めて、  ・・・・・・・・・・ 「アレ人間じゃないよね」 ……そうとだけ、一桁の足し算に答えるように迷わず、口にした。 「……なら、何だっつうんだ」 再三とぼけようとしたが、俺は直後に藍に胸ぐらを掴まれ背後の壁まで押しやられた。 痛みを覚える事は無かったが、ほぼ宙吊りだ。爪先が畳を掠めている。 「……痛むかよ? その傷。随分手ぬるいぜ。普段のじゃれ合いの方がよっぽど、過激だ。俺を正直にさせたいんだったら手加減抜きで――」 「ううん。別に、私怒ってないし。そうやって誤魔化してる事にはね」 藍はそう言いつつも襟首の拘束を緩めずに、俺の眼を覗き込む。 鼻先が触れ合い、まつ毛が絡みそうになる至近距離。 逸らしようがなかったから見つめ返した。 藍は続ける。 「だって仮に裁四が本気で今日の事を隠そうとしてたら、私、あの子の異常さに気付けなかったと思うもの。"アレ"を見過ごすとか、それこそ異常な事だけど。私は勘繰ろうとする気さえ起こせなかったはずだよ」 ――裁四は、それぐらいの事はやっちゃう子だ。
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