二、歓迎祭

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エリシア・エミリュエール・ド・ワールアイルヴォラスは吸血鬼であるらしい。 末尾の歯切れが悪くなったのも無理はないんじゃないかと、どこぞの誰かに向けて届かぬ同意を求めてみる。 十七年余りのこれまでの人生を、少なくとも昨日までは尋常な人間として過ごして来た俺は何の変哲もないありふれた男子高校生だ。背中にのしかかるコイツを吸血鬼として扱ってはいても、事が事なだけに完全には信じきれていない、というのが正直な所だった。 それでも。俺は、月が浮かぶ空から零れ落ちるように落下した少女に遭遇し。首筋に喰い付かれ。溢れ出る血を貪られた。 半信半疑もそのままに、吸血鬼なんていう荒唐無稽を、納得せざる得ないだけの圧倒的な現実がそこにあった。 諦念とも言えるか。 コイツが吸血鬼だろうが何だろうが――化け物である事は変わらないと。 すんなりとはいかなくとも、思い起こせば背中が疼いてしまうようなそんな程度の紆余曲折を経て……俺は受け入れた。 比良井裁四は、吸血鬼エリシアの下僕となる事を受け入れた。 吸血鬼様のタンブラー。 一連の始終その全て、ほんの数時間前の出来事だ。
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