三、不可能避

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その音を聞いて顔を上げた。 「……トッピングでも付け加えに来たのか」 「あ、チーズが乗っかると嬉しいかもー。ってそうじゃなくて」 せわしく飛び出していったはずの藍。 ちょっと開いた扉の隙間から首だけ侵入させている。 「エリシアちゃんが、階段の下まで来ちゃってる」 「待ってられなくなったか」 「そうみたい。でも私の事を見てビュンッて、廊下の奥にまた隠れちゃった」 シュン…と自分の口で効果音を付けてうなだれる。 頭を下げすぎて高めの位置で一本に結わえている黒髪が、床まで届いてた。髪にホコリが付くとか、そういうのをこいつは気にしない。 「何なんだろうなエリシアのあの行動は」 怖がってないとは力説されたが。そうにしか見えねえ。 「でもなんか、こう……もう、動くたびに愛らしいのよね。いちいちキュンキュンさせられるわあ、もう」 頭を振り髪の束で床を掃除しながら、息を荒くしていく変態。 「じゃあ今度こそ私はエリシアちゃんを脳内で着せ替える作業に戻ります」 「おう」 藍が言葉通りに隙間から退場した。 ドアが閉じられる。 「……エリシアちゃんってさ」 少し遅れて届く。 それは多分独り言。 「似てるね。あの子に」
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