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さて材料は冷蔵庫に揃ってる。ハンバーグは、比良井家じゃわりと定番だ。
ボウルに諸々投げ込む。
玉ねぎは切ったやつをパックしてある。肉は冷蔵室にあったから解凍する手間は要らない。
調味料は量らない。繋ぎはさっきのトーストの余りでいいもうどうでもいい。
半ばヤケで肉を練っていると横合いから声がかかる。
「手慣れてるのね」
「これだけはな。他のメニューとなりゃ別だ」
「料、理? を、してる場面に初めて出くわしたわ」
「セレブが……」
エリシアに見学されつつ、しばし無言で肉をこねる。
冬場は寒くて使われない台所の食卓。エリシアはそのイスを一つ引いて座り、背もたれにしなだれかかっている。
「…………」
"その"イスを引いたのは、……偶然に違いない。
一番手近に有っただけ。ほんの少し脚の短いそれが他より座りやすそうだっただけ。
この吸血鬼が知るよしなど無いのだ。
それがかつて誰のために有った物なのか、なんて事。
(――似てるね。あの子に)
先程耳をかすめた、藍の独り言。
否定はするまい。
認めてやろう。見ない振りの悪あがきも限界だ。
長く艶やかな髪。
抜けるような肌。
余裕を讃える唇。
揺らぐ事を知らない瞳。
到底、同じではない。相違点の方が間違いなく多い位だ。それでも。
目を閉じれば欠片も色あせず思い起こせる、アイツの姿が。心が。在り様が。
エリシアに重なる。
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