三、不可能避

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重なる。 ……それだけ、だ。 そんな些末事で判断を狂わせるような馬鹿げた真似を、俺は。 しちゃいない。 そのはずなんだ。 「……………………」 「……………………」 静かだ。 背後のお嬢様は、もう眠りに落ちているかもしれない。 「エリシア」 「…………なぁに?」 「起きてたか」 「起きたのよ」 背を向けたまま会話を交わす。 こっちの作業は大詰めといった所だ。手を休めずに口を開く。 「次に俺の家族を傷付けたらお前を許さない」 独り言のように告げた。 言う間に最後のハンバーグを取り分け終える。 焼くのは寝て起きてからでいい。 空になったボウルを洗い場に放り入れ、手に付いた脂を洗い落とし、振り返る。 するとくつろいだ姿勢でイスにもたれるエリシアが、笑っていた。 廃工場で見せたような、活き活きとしたワルい顔で。 「それでいいのよ」 「は?」 エリシアがイスから下り、にじり寄って俺との距離を縮める。 普段と大して代わり映えしていないであろう俺の気の抜けた面を、上目遣いに見上げてくる。 「今のは良かった。貴方の心のうち側が、言葉の端々から滲んでいたわ」 「……訳のわからん事を」 とぼけてはいない。 俺にはコイツの言いたがってる事がわからなかった。 「もっと見せて。曝して。そのたびに私は美酒へと近付くの」
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