三、不可能避

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「"ふぁあひ"」 "ただし"。訳すのめんどいからさっさと口から手を離しやがれ。 「……ただし。効力も依存性も人造の薬物とは比べ物にならないわよ。たった一度の吸血で人間の脳は形を変える。そのままの意味で、"変形"するの。視床下部周辺が肥大し、大脳新皮質が拡充され、ホメオスタシスを無視したほぼ際限のない強度の快感を受け入れられるよう脳全体の構造がゆがむ。ひずむ。あらゆる欲求の向かう先は吸血の多幸感へとすり替わる。思考力と呼べる物が残されるのはここまで。二度目を超えれば、大脳は快感神経が束になっただけの原始的な器官に成り下がり……人格は消滅する。肉の塊に生き血が詰まった、素敵な杯の出来上がり」 「ほほお」 オイオイオイオイ、オイコラ、よくもんな物騒な真似を軽々しく……と内心思いながらも、なんというか大袈裟なリアクションを取りあぐねる。 平然としていられる理由をあえて挙げるなら、今こうして平然としていられてる事がそうだっていう。要するに。 「俺全然平気なんだけど?」
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