二、歓迎祭

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「……………………」 無言で背中に爪を立てられた。 ………………痛い痛い痛い痛い。 「ああそういや、まだ聞いてなかったよな」 「ん…………なあに?」 ギリギリと音を立てて鋭い爪を食い込ませてくるお嬢様の気を逸らそうと、適当に話を振った。 振ったはいいが、話しの内容なんざさっぱり考えてなかった。 つか爪の圧力もさっぱり緩まねえ。 「あーっとよ……そもそもの発端……お前がこの町に来た理由だよ。それどころじゃなかったし、必要でもないから放っておいてたがよ」 こんな都会でも田舎でもない半端な町を、魑魅魍魎の代表格みたいなやつがウロウロしてたんだ。場違いにも程がある。 それなりの目的があるんだろうと興味が湧いたかといえばそれは全然だったが、思い付きだ。 「なんだそんな事……。別に、この町に特別狙いがあった訳じゃないわ。ただ、探し物をしに最初に訪れた人里がここだっただけ」 答えつつ、俺の皮膚の張力限界を探して力を強めたり弱めたりして遊び始めたエリシア。とっくに服は貫通している。そろそろ突破されそうだ、限界。 「探し物ね……ああ、タンブラー? じゃあ初日で目的達成かよ。申し訳ないね、世間知らずのお嬢様の旅立ちを出鼻から味気ないものにしちまったみたいで」 「それは目的の一つ。どちらかというとついでの用事だった。私はタツシで満足したし、まあ他の血筒を探すつもりはないわね」 そう言うと、牽制の意味を込めてなのか一際強めに爪を立ててから、エリシアはまた俺の肩に顎を乗せた。
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