二、歓迎祭

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「向けられた殺意すら心の底から祝福して笑った。それ程の代物よお前の自殺願望は。――――なのに。お前は今も、こうして確かに生きている。死を望んでやまなかったあれだけの自意識をまるで、…………紙屑みたいに。ないがしろにして」 エリシアの吐息が耳の裏にかかった。 密着して浴びせられる声は脅すように低く鋭く、どこか響きに湿り気を帯びている。 寒さのせいではきっとなく、身の毛がよだった。 「狂ってるわ。破綻している。その歪な生き様を―――――それでも生き続けさせている理由が、有るのでしょう?」 言葉の端々に蔑みが覗いていた。エリシアはそれを隠そうともしない。 いや、むしろ強調してる。 まるで自分の内心を隠そうと、懸命に取り繕うかのように。 そんな怖いか。 俺の在り様が。 ――怖くなる位、気持ち悪いか。 「ハッ……。どれだけ聞こうが、教えてやらねえっての」 諸々に気付かない振りをして、テキトーに鼻で笑った。 するとエリシアが頭をこてんと軽く傾けて、首筋に密着してきた。 「……うあ……っっっ!」 「わかってるわよ。だからこそ、私はタツシを観察するの。至近で一年も過ごしてれば生態の一つや二つ、きっと見えてくるはず。そうなればもうこっちの物だわ。死にたがりのお前を、生きたいと思える真人間に引き戻す。『生き汚さは血を美味くする』! 見てなさいタツシ、お前の生き血は今に最高の甘露へとなり遂げるのよ」 纏わりついてくるエリシアは、今から待ち遠しいと言わんばかりに楽しげだ。 死ぬ程怖くて気持ち悪いけどそれはそれ。……恐怖より食い気、だったなテメエは。 頬擦りすんのやめろ。 頸動脈を探り当てるなコラ。
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