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プロローグ
フンワリと珈琲の香りが漂う店内。
僕はこの香りが好きだ。
やっぱり生まれてからずっと嗅いでるからだろうか。
僕の名前は温水(ヌクミズ)菖蒲(ショウブ)。
アヤメじゃないからね。
ここ喫茶店「向日葵の日溜まり」に勤めてるしがない喫茶店員。
実は父さんがマスターで、継ぐつもりでずっと勉強してきた。
2年前にバリスタの資格も取れて、今は店の珈琲のブレンドも任されてる。
「アヤメちゃん、ブレンドちょうだい」
「アヤメじゃないですってば」
常連の石美(イワミ)様といつものやり取りをして、カウンター内に入った。
フィルターをドリッパーに装着して、挽いてある粉を一定量入れてコップの上に乗せる。
お湯をかけて、少しの間だけ蒸らしてから、豆が隠れるくらいにお湯で浸した。
ドリッパーからポタポタと珈琲が垂れているので、豆が空気に触れないように気遣いながらお湯を足していく。
あぁ、やっぱりこういった時間が僕にとっての至福なんだろう。
いれたての珈琲の香りを無意識に堪能し、心からそう感じた。
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