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「こんなみすぼらしい店に呼び出して、どういうおつもりですか?」
淹れ終わった珈琲が冷めてはならないと石美様のところへ運ぶと、僕越しに石美様へと投げ掛けられた会話。
みすぼらしいとか、外装や内装が気に入らないなら入ってこなければいいのに。
ツキンと僕の胸が痛む。
そしてお金持ちなのは知っていたけれど、石美様も同じことを思っているかもしれない。
そう考えた途端、さっきとは比にならないほどの痛みが僕の胸を襲った。
「仮にも店員の前だぞ。君のプライドの高さは知っているが、失礼じゃないのか」
石美様は顔を険しくしてフォローしてくれたけど、何でかな。
まだ胸がいたいんだ。
「ごめんね、菖蒲君。彼が……私の秘書頭が失礼なこと言って」
「いえ、庶民的な店ですから」
石美様が僕をショウブと呼んだ。
初めて彼と会ったときに「温水菖蒲」と書かれた僕のプレートを見たときに「アヤメ」と読み、それから愛称として二人の間では定着していた。
もちろん、今までだって散々間違えられ、「アヤメ」と呼ぶのも彼だけではないけれど。
「今日はね、覚悟を決めてきたんだ。……菖蒲君?」
「あ、はい!?」
少しトリップしてたみたい。
石美様に呼ばれて驚いて、俯き加減だった顔を上げた。
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