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「…そろそろ帰りましょう。夜の渓谷は危険です」
蜂蜜色の長髪に血のような紅い瞳に眼鏡をかけ、マルクト帝国軍の制服を着た男性―ジェイドが眼鏡の位置を直しながら、そして少し悲しげに皆に声をかけると皆はジェイドと同じく、悲しげに崩れたエルドラントに背を向け、歩き始める。
その時だった…
サクッ。
草を踏み締める音。ティアやナタリア達のとは、違う。後ろから聞こえる。ティアがハッ、として振り返る。
「どうして…此処に…?」
その視線の先には、紅い長髪に瞳が隠れた青年がティア達に近付いていた。
「此処からなら、……ホドを見渡せる。それに…約束してたからな」
その赤髪の青年は、微かに笑みをこぼす。
ティア以外の仲間達も振り返る。すると、悲しげな表情は喜びの表情へと変わり、ジェイド以外はルークに駆け寄って行く。
「ルーク…!久しぶりだな!」
ガイがルークの左肩を右手で軽く叩く。
「あぁ。ナタリア、アニス、ジェイドに…ミュウも来てくれたのか」
「ご主人様!良かったですの、また会えたですの~」
ミュウが半泣きしながらルークの胸に飛び込む。
「……」
皆がルークと楽しげに話している中、ジェイドは一人ルークを見つめたままだった。
「ん、どうしたんだジェイド?」
「…あぁ、いえ、何でもありませんよ。それより、早くバチカルに帰った方が良いのではないですか?」
少し驚きながら、眼鏡のブリッジを指で押し上げながら微笑みを浮かべる。
「えー、何でですかぁ?」
アニスがジェイドに問い掛ける。
「お忘れですか?今は成人の儀の真っ最中で、ルークは帰って来ている。…終わったら、どうなるでしょうねぇ」
微笑みに、微かな黒が掛かり始める。
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