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「そうです、死の原因は私にあるのです。私がいなければ死ななかった筈の人達も大勢いるのです。私はもう見たくありません。私のせいで大切な人々が死んでいくのを…………」
そう言って彼女はそっと僕の頬に手をあて、涙を拭ってくれた。
「あなたなら大丈夫です。きっと、私なんかがいなくとも。」
そう言うと彼女の体はフワッと宙に浮かんだ。
「待て!最後に聞かせてくれ!」
夜空に消えようとする彼女を呼び止めた。
彼女は空中でその優雅な体を留めた。
「僕が、僕が健康なら君は幸せなんだな!?」
「はい。」
「だけど僕は君を忘れない。」
「はい。」
再び涙が溢れてきた。
「絶対に忘れないから!」
「はい、私も忘れません。さようなら。」
そうして彼女は夜の空へと消えた。
北の七つの星が彼女の着ていたドレスの金色の星と重なって見えた。
僕は涙を堪えた。
歯を食い縛って堪えた。
それでも涙は止まらなかった。
両手も強く握った。
グシャッ
右手の中からした音で涙は止まった。
「これで良かったんだ。」
ベランダから部屋へ戻った。未来の妻になる予定の彼女は顔を伏せて小さく泣いていた。
僕はそんな彼女の横に腰を下ろし、自分にできる最高に優しい声で言った。
「煙草やめるよ。」
彼女は向日葵のように明るく笑って僕に抱きついた。
僕はこれから君らのために生きていくよ。
赤いゴミ箱に右手で潰した箱を投げ入れた。
ゴミ箱の中には潰れたセブンスターのソフトケースが一つ横たわっていた。
これで良かったって思える日が来るのは明日かもしれないし、来年かもしれない、それはわからないけどいつの日か心から良かったと思える日がやって来るだろう。
今一つ思えることは煙草をやめられたのは人生で最良の決断だったかもしれない。
っていうこと。
ただ、彼女のために買った、七つ星のzippoを今でも部屋に飾ってあるのは僕だけの秘密だ。
完
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