罪状.壱‐壱

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『時は平成、世は平穏』  なんてことを言ってた人がいた。  どこの誰だったっけなぁ、そんな見当外れの世迷い言を言い放ったのは。  現在3月14日6時30分、お菓子会社の陰謀により女性が意中の男性に想いを告げる日から一ヶ月後、男性が女性にお返しをする日。  そんな幸せ満載(?)のイベントの日に、なぜボクはこんな山の中を走り回っているのだろう……? 「ぎゃはははははは!! おいおい逃げんなよー。俺傷ついちゃうぜー」  そして、なぜ追ってきているのが出夢さんなんだろう? 「あなたが追いかけてくるからでしょうが!! しつこいんですよ、なんで追っかけてくるんですか!?」 「ぎゃはは、そんなのお前と遊びたいからに決まってんだろー」  意味が分からない。  やっぱりダメだ、このテンションのこの人とまともな会話は成り立たない。 「遊び相手が欲しかったなら、人識さんがいるでしょう!!」 「……………。だってよー、あいつってば用事があるっていうんで相手してくれなかったんだからしょうがないじゃんか」  今、一瞬だけ、出夢さんの顔が曇ったような。気のせいかな……? 「だからってなんでボクのところに来るんですか!? ボクだって暇じゃないんですよ!!」 「細かいことはいいじゃんかよ。ホワイトデーにこーんな可愛い子とデートできちゃうんだぜ。良い感じに雪も降ってきてそれっぽくなってんじゃん」  確かに30分くらい前から雪が降って来ている。  ムードも十全にでることだ。  だがそれは――  ごく普通の街中で、  ごく普通の男女が、  ごく普通にホワイトデーらしく過ごしている状況であったらだ。  どんなに愉快な解釈をしても――  ごく異常な山中で、  ごく異常な男女(?)が、  ごく異常に非ホワイトデーらしく走り回っている状況ではムードもへったくれもない。 「デートって…… あなたの言うデートをしたら確実にレッドデーになるに決まってるでしょう!!」 「なんだよー つれねーこと言うなよ。ただちょこっと、ほんの1時間だけで良いんだからさぁ」 「1時間って、殺り合う気まんまんじゃないですか!!」 「ん? 何言ってんの、いくら俺でも流石に殺そうとは思ってねーよ。そもそも無理矢理押し付けられた依頼だから気乗りしてないし、中坊相手に本気モードとか大人気無いだろ?」 「なんだ,それならだいぶ気が楽に――って、え? 依頼!?」 「おう。あれ? 言ってなかったっけ?」
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