別記.壱‐壱

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 それは、とあるビルの一室にいる。  その一室はいわゆる展望用のフロアとなっていた。  それは、そこからネオンが煌めく街を見下ろしている。 「イギリスでは切り裂きジャックの再来が騒がれ、アメリカでは有名な催眠術師が殺されかけ、学園都市では能力者の暴走により研究所が壊滅する。私が手を出さなくとも、この世は着実に破滅へと進んでいる」  それを、表現するならば『どこにでもいて、どこにもいない』の一言に尽きる。  百人に聞けば、百人がそれぞれ違った特徴や印象を答えるだろう。それが千人になろうが万人になろうが変わらない。  ある者には『サラリーマン然とした青年』、ある者には『薄汚い浮浪者』、ある者には『妙齢の婦人』、ある者には『やんちゃな少年』……。  それの、持つ過負荷[マイナス]とはそういうものだった。 「今の案件が終わったら、次は学園都市           、、、、、、 にでも行ってみるか。運が悪ければ《災縫箱[パンドラボックス]》の少女に出会えることだろう」  そう呟くと、それは、携帯電話を取り出しどこかに掛けはじめた。  2コール目が鳴るか鳴らないかで、相手が出たようだ。 「やあ、私だ。首尾はどうかな?」 「そうか。兄妹が、射堂の坊主と匂宮のルーキーに接触したか」 「その調子で掻き回せ。上手くいけば全員死ぬ」 「わかっているさ。すべてが終わればお前の地位は盤石のものとなる」 「そう疑うな。こちらも、狐の手足となりうる存在や疎ましい赤色の弟子を処分できる。持ちつ持たれつというものだよ」 「何度も言っているだろう。私が求めるのは、混乱と破滅と絶望だけだ。その為なら、誰がどうなろうと知ったことではない」 「あぁ、大丈夫だ。それでは健闘を祈る」  その台詞を最後に、それは、通話を切った。 「さて、事の顛末くらいは見届けるのも悪くはないだろう」  そう言うと、それは、部屋を後にした。同時に不可解な電子音が部屋に鳴り響いた。  しかし、それも直ぐに止む。  部屋は再び静寂に包まれた。  数分後、ビルが建っていた場所には瓦礫の山が形成されていた。        ――――――――――。
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