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さっきまで寒かったはずなのに、背中と脇の下には冷ややかな汗がじわりと浮かんだ。
やかましく響く心臓の音を耳の奥で感じながら、熱くなった顔を車のドライバーに向け軽く頭を下げると、向こうも軽く頭を下げ、片手を少し挙げた。
俺が横断歩道を渡りきると、また乱暴な音を鳴り響かせながらその車は光の跡だけを残し、小さくなっていった。
そうか……、どこかで見たことあると思ったら花子の笑っときの目にそっくりだったんだ……。
ありがとうハナ。
そういえば、あれだけ信号は気をつけて渡るんだよって小学生の俺がいっちょ前にハナに教えてたのに、今度はハナの方に教えてもらっちゃったな。
不思議なものでこういうことがあるとやっぱり自分は生きているんだって実感する。
さっきは生きているのが当たり前だって考えてたのに、今はそのことにすごく感謝する。
俺より一つ年上で、18年も生きたハナをいつの間にか俺……だいぶ追い越しちゃったよ。
そっちの生活はどうですか?
先に逝ったじいちゃんには会えた? またかわいがってもらようるんか?
あの月みたいな目をして笑っとるんじゃろうな……。
友達はできた? 彼氏は? 俺が認めたねこしかだめじゃけぇな。……なんて。
せっかく助けてもらったんじゃけぇしばらくはそっち逝かんけど、……それでええんじゃろ?
ご存じの通り、俺は相変わらず方向音痴じゃ。
ハナに付いて行きょうたら道分からんくなって泣きょうた俺を、無事に家まで帰してくれたよな?
振り返るように立ち止まりながらゆっくりと。みんなは信じてくれんかったけど、俺にとってはほんまのこと。
まぁまだ方向音痴じゃけぇそっち逝っても会えるか分からんわ。
もし会えたらいろんな所案内してな!
あんときの散歩の続きをまたしょうや。
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