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いつものように自転車をこぎ出すといつもとは違ったものが目に入ってきた。
透き通ってはいるが真っ暗な夜空に浮かぶ細い月。絵の具では決して完璧に表現できないであろう神秘的な光景に思わず寒さも忘れてしまう。
わずかに形を残しただけの細いものだが、確かに月だと分かる。それでもあんなにも輝けるものなのだろうか。
太陽の光を反射しているだけだと学者は言うが、それでもこの暗い世界に安心感を与えてくれる彼の輝きはもうなくてはならないものになっているではないか。それもまた一つの才能だと俺は思う。
……なんて口が裂けても言えやしない。どこのロマンチストだと笑われてしまうのが関の山。人によっては見えない壁をつくられてしまうだろう。だから口が裂けても言えやしない。
そういえばあの形……どこかで見たことがある。どこだろう?
手を伸ばせば届きそうなとこにあるのに、決してこの手では触ることができない距離。触れてしまうと切れてしまいそうなほど鋭く尖った端。それでも簡単に割れてしまいそうなほど細い……。
そうか……スイカの皮か? そもそもどこかで見たことがあっても当然だろう。月は一つしかない。同じ姿をした月を見たって何ら不思議じゃない。
そんなことで自分を納得させ、さっき見たテニスボールとはまた違う黄色に輝く月を見ながら俺は自転車をこいだ。
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