あの月……

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横には畑や田んぼが広がるのどかな道。実はこんな光景に一番心を落ち着かせたりする。それは生まれ育った故郷を思い出すからだろうか。 広島か……。田んぼで作業をするおばちゃんに突然時間を聴かれたことや、ほどけた靴ひもがペダルに絡まり乾いた田んぼに自転車ごと倒れ落ちたこともあったけ……。あのときは田んぼが乾いててよかったな。 それにおばあちゃんちで飼っていたねこの花子とも散歩したっけな。 そんな思い出に浸りながら、少し前まではカエルや虫が鳴き、賑やかだった田んぼ道を横目に俺はただペダルを踏みしめる。 目の前にはローソンやガソリンスタンドが建ち並び、再び明るい場所まで帰ってきた。 ヘッドライトをつけた車がどんどんと行き交う大きな交差点。両端にガソリンスタンドがあり、少し行くと焼き肉屋さんやおしゃれなコーヒーショップ、リーズナブルな牛丼屋さんにお寿司屋さん。 いつ見てもこのお寿司屋さんの前に並ぶキャラクターたちのパネルは、夜になると何とも不気味なものだ。 そんな慣れ親しんだ道を通ると、無意識に自転車をこぐのはもう当たり前のことだ。 無意識になると、ふと月が視界に飛び込んできた。 やっぱり見たことがある……気づくと月ばかりに意識を奪われていた。
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