はじまり

2/2
前へ
/2ページ
次へ
ザァー 風の音、いや、これは雨の降りだした音。 普段あまり開けることのないカーテンを、少しずらし外を確認する。 あぁ、やはり雨だ。 落ちてきた雨粒が地面を、窓を、濡らしていく。 窓を開けると、湿った空気が入ってきた。 雨の匂いが部屋を充たした。 暗く、どんよりとした空は私の気分を重くさせた。 静かな部屋の中、雨音と私の呼吸する音だけがいやに耳に残る。 私は今日も動けずにいた。 私は平凡な学生だった。 文句を言いながらもそれなりに勉強し、部活に勤しみ、友人と下らないことで泣いて笑って喧嘩して、人並みに恋もした。そんなありふれたどこにでもいるような人間だった。いや、今もそうだ。 私の普通の毎日が崩れたのはいつだったか。それは理由もきっかけさえもよくわからない。探せばいくらでもみつかるのだろうが、きっとそれらはすべて正解であって不正解なものだろう。 私はある日突然外に出ることが出来なくなった。 最初の頃は認めたくなくて、無理をして普通の生活をしていた。しかし、段々と無理が体調の変化としてあらわれた。 母は私が休みたがることを心配しながらも、ただ学校に行きたくないだけだと思っているようで、映画や買い物に連れ出した。心配かけまいと、なるべく普通を装っていたが、限界がきた。私はなぜか人間と接することが怖くなっていた。気づかないふりをして押し込めていたものは少しずつ私を蝕んでいった。 外に出ると頭痛や吐き気を催すようになった。 眠気が酷くなり、起きている時間が短くなった。 食が細くなった。 視線、声、電話の音に怯えるようになった。 記憶が曖昧な部分が増えるようになった。 私は今までの私とはまったく別の私になった。 どうしよう。ごめんなさい。怖い。どうでもいい。何故。 ぐるぐると単語が浮かんでは消え、答えの出ない思考に沈んでいく。 わかっていた。認めたくなかった。 私は夢に逃げ込んだ。 幸せな夢がみれるように、楽しい想像をして、布団にくるまる。不意にやってくる現実は曖昧に笑って流したり、知らないふりをした。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加