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また布団に戻ったのはいいのですが、目をつぶって震えながら縮こまっていると、目の前に女の顔と老人の顔が交互に浮かんできて恐い……。
目を開けて、部屋中しっかり監視しながら朝を待ちました。
そうして翌朝。
もちろん一睡もできませんでしたが、何事もなく朝を迎えた私は大学に行こうと思いました。
あそこなら、みんないるので一人にならずに済みます。
しかしそこで、重要なことに気付きました。
──服は替えがある。でも……カバンがない。
カバンはあの老人の家にあるのです。
財布も学生証もあの中にあるので、取りに行かなきゃなりません。
そうしてとりあえず駅前まで来たものの、右に左にウロウロしながら問題の骨董品店をチラ見するのが精一杯で、どうしても商店街に入ることができません。
決心がつかず焦っていた時、「あら! あなた!」と声をかけてきたのは昨日のおばさんでした。
──そうだ! おばさんに取ってきてもらおう!
光明を見たような気持ちで頼もうとした時、「探していたのよ~はいあなたの荷物。洗濯しといたから」と、紙袋を渡されました。中には服とカバンが! やった!
今にも踊りだしそうな気持ちだった私に、おばさんは早口で言いました。
「昨日どうしたの? 全部脱衣場に置きっ放しでいないんだもの。驚いたわよ」
それはおかしいことでした。風呂から上がった時、服は洗濯のために持って行かれてて、脱衣場には何もなかったハズ……。
「え? 服はおじいさんが洗濯してるって──」
言い掛けて、ハッとしました。
今だにあの老人が生きた人間だなんて思う奴はいません。
おばさんも驚いたように少し黙りましたが、ゆっくりした口調で言いました。
「兄は亡くなったのよ。あの家には仏壇があって法事でたまに使うから、私が管理してるの。店や家の物は全部処分してあるし……誰かいるはずないでしょ」
おばさんは引きつった苦笑いを浮かべていました。
──と、ここでリアルに一度目が覚めました。
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