運が悪かった?

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風呂に入りながら、私は老人について考えを改めていました。 ──あの老人は別に変な人じゃないな。いつもじーっと見てきたのだって、もしかしたら私の顔に何か付いてたからだったかもしれないし。シェービングクリーム、よく落とし残すしな。 なんて考えるとすっかり気が楽になり、鼻歌混じりでお風呂から出ました。 すると脱衣場にあの老人が立っているじゃないですか。 私はビックリして慌てて風呂場に逆戻りし、ドアに隠れて顔だけ出すと「すいません」となぜか謝ってしまいました。 老人は眉一つ動かさず、「服……洗濯しているから、終わるまでここで待ってなさい」と言うと、滑るようにすーっと出て行ってしまいました。 私はドキドキしながらも、──男同士だし……変に意識するのも失礼か。風呂も借りたんだし……。と思い直し、ため息をつきながら脱衣場に上がるとバスタオルで体を巻きました。 「さて、ここで待ってろと言われても……」 何にも無い脱衣場です。広さは二畳程で、壁には頭の高さに小さな窓があり、床には掃除道具がまとめられてるバケツが隅に置かれている以外は何もなく、むき出しのコンクリートで囲まれた空間は薄暗くてじめじめした感じでした。 私は5分ほど我慢したものの耐えられなくなり、座敷で待たせてもらおうとドアを開けました。 しかし座敷に老人の姿はなく、ちゃぶ台の上もきれいに何も無くなっていました。
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