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昔の話だった。雪の降る寒い夜に、美琴は組織に差し出す事になる赤ん坊を抱きながら泣いていた。
美琴は組織の恐ろしさを知っていた。故に産後で体力の落ちた美琴に抗う術は無いと分かっていた。
出来るのは、涙を流す事だけだった。
「すまない……すまないっ…………!!」
それは美琴にとって初めて芽生えた感情であった。母親の温もりを知らない美琴が、母親となって初めて知った感情だった。
「無力な私を恨んでくれていい……お前の憎しみならいくらでも受ける……」
母性に目覚めた美琴にとって、我が子の未来に待つ地獄は受け入れられなかった。しかし、それに抗う事は出来ない。
だから美琴は、生まれた赤ん坊を抱きながら、ただ謝っていた。
そんな様子を眺めながら、麗華はただ一人の友人の涙を見ながら世界を呪った。
(……何故だ?何故、あの二人がこんな目に合わなければならない!?何故、新しい命を、世界は祝福してくれない!?)
恋人達の甘いイベントの日に生まれた少年は、ただ悲しい愛を受けながら地獄へと落ちていった。
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