異常な日常

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この老人ホーム『なごみ荘』は小規模で古い建物ながらそこに入りたいという入居待ちの高齢者が多数いる。 それに比例するように職員はばったばった辞めていく。 下の世話から認知症の方の対応、それに大量の資料整理。それに相応しない地面を這うくらいの安い給料がやる気を下げるのに拍車をかける。 (よっぽど人間できてなきゃ勤まりゃしねぇよ。それかストレスに鈍感か) 白凪 春徒(しらなぎ はると)は いつもこう思う。 終わりの見えない血の池の地獄を泳ぎ続けている。 それほどに春徒は仕事に対して嫌気がさしている。 彼女への注意で削ってしまった休憩時間の残り10分。 春徒は屋上へ向かうとベンチに腰をかけて空を仰いだ。 『はぁ~。クソ課長ー。どっか飛んでけ~。あーつまんねー。いいことねぇーー。』 ふと奥で何かが落ちる音がした。 春徒は忘れていた。春徒が腰掛ける入り口近くのベンチの他にここからは丁度植木の陰になる所にあるもうひとつのベンチの存在を。 (ヤバイ。今の課長への悪口聴かれてたら非常にヤバイ。) ここで逃げ出すのも声が聴かれていて春徒だと分かっているだろう今不自然過ぎる。 女性が大半を占める職場だけに、この心の叫びは流行型のインフルエンザを10倍パワーアップしたくらいの勢いで広がることは間違いない。 そう、非常にヤバイのだ。
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