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その少女は、長い時間、インテリアの売り場で遊んでいた。
靴を脱いで学習机の椅子から椅子へと渡り歩き、それに飽きると、絵本を開いて読んでいる。
4歳~5歳だろう。幼稚園で言えば年少組か年中さんに当たる。
まさかとは思うが、ふと気になったので、私は女の子に近寄って訊いてみた。
「何のご本を読んでるの?」
「これはねえ。げんこつやまのたぬきさんよ」
歌の絵本だった。
彼女は小さな声で唄っている。
「ママと一緒に来たんでしょ? ママはお買い物しているのかな?」
「ママと来たんだけど、パパが迎えに来るんだって。今日からパパと暮らすの」
「そう。ママは帰っちゃったの?」
「そうよ。ママとパパは、りこんしたの」
私は、言葉を失った。
「あっ、パパだ! じゃあね。おばさん、しんぱいしてくれてありがとう。おばさんは、りこんしないでね。バイバーイ」
少女は、一目散に駆け出した。その先には父親が両手を広げて待ち構えている。
「良かった」
おばさん……か。
私は、まだ独身で二十歳なのよ。
―了―
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