一周目

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ダイニングを抜けて奥の寝室へと進む。 ベランダへと続く窓の前に、長年愛用しているベッドがある。 その脇にまた、箱。 やはり一抱え程度の、小さな、茶色で、無地の、ダンボール箱。 ナニカが詰まっていた箱と違い、それの上部には覗き窓のような長方形の穴が空いていた。 穴の大きさは、拳よりも少し大きい程度か。 これは『メデューサの箱』だ。 突然部屋に現れた、穴以外は何も特徴が無い、小さなダンボール箱。 見たことも無い、聞いたことも無いそんな名前が、私の頭に突如浮かんだ。 名前からして、覗いてはいけない箱なのだろう。 目を見ると石化してしまうという、世界でも有名な化物の名を持っているのだから。 だが、そんなものを脇に置いたまま、ベッドに横になるなんて、できない相談だ。 移動しなければ。 私は意を決してその箱に手を伸ばす。 中は見ないように…… ……が、好奇心には勝てなかった。 持ち上げようと屈んだ瞬間、覗き穴を見てしまったのだ。 中には、綺麗な女性が、胸の上に手を合わせて(棺桶に入って埋葬される時のポーズだ。少なくとも上半身は)眠っていた。 正確には、眠っているように見える。だが。 作り物のような(実際に作り物かもしれない)ただただ綺麗な顔をして、緩やかなウェーブがかかった金髪の、目をつむった女性が息をしているのか、していないのか。 得体のしれない箱に顔を近づけたり、マジマジと覗き込んだりはしたくない。 何より、この小さな箱の中で安らかに眠っている生物など、不気味でしかない。 それが作り物なのか、生物なのかは正直、どちらでも良い。 私にとってそれは、安らかな眠りを邪魔する不気味な物体でしかないのだから。 とにかく排除すべきものなのだ。 私は箱から後ずさりをし、とりあえず覗き窓を塞ぐための何かを探し始めた。
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