193人が本棚に入れています
本棚に追加
「クー・フリン様。神王様がお待ちです。ついて来て頂けますか?」
漆黒の長い髪と透き通るような声。
それでいて、顔を覆い隠すように付けられた仮面。
目だけが開いた仮面の形状からは、その女性がどんな顔をしているのかわからない。
声色ぐらいからしか、彼女の表情を想像することしか出来なかった。
「アルテミス、君自ら案内してくれるのか?」
アルテミスは『王室付き』の騎士。
部隊を組むフリン達とは違う立場であり、最後の砦なのだ。
神王から側近を離すことは基本的にあり得ない。
警備がなされた城内とはいえ、もしものことがあるとき神王を守る者がいなくなるからだ。
アルテミスの目が瞬きをするのだけが見てとれる。
少しだけ空いた間に風だけが通り過ぎる。
揺れる髪を右手で抑え、風が止むと同時に口を開いたのだった。
「貴方を私の鳩に案内させるわけにはいけません。朱雀隊隊長を愚弄することなど、私はしかねます」
「固いな、同期の俺とでも立場の区別をつける気か?」
フリン自身、そんな意識して質問をしているわけではないが、アルテミスは考えているような素振りを見せる。
アテナやエロスとは違う会話の間に、フリンはため息を吐いてしまった。
「そんな意識をしているつもりはありません。ただ、クー・フリン様がお気に召さないようならばこの場を借り、謝ります」
少し頭を下げて、フリンを見据える。
普通に会話をすることさえ、『王室付き』には出来ないのか呆れてしまう。
「行こう」と促せば、アルテミスは踵を返し、城内へ導くように歩き出したのだった。
最初のコメントを投稿しよう!