【一章】

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「クー・フリン様。神王様がお待ちです。ついて来て頂けますか?」  漆黒の長い髪と透き通るような声。 それでいて、顔を覆い隠すように付けられた仮面。 目だけが開いた仮面の形状からは、その女性がどんな顔をしているのかわからない。 声色ぐらいからしか、彼女の表情を想像することしか出来なかった。 「アルテミス、君自ら案内してくれるのか?」  アルテミスは『王室付き』の騎士。 部隊を組むフリン達とは違う立場であり、最後の砦なのだ。 神王から側近を離すことは基本的にあり得ない。 警備がなされた城内とはいえ、もしものことがあるとき神王を守る者がいなくなるからだ。 アルテミスの目が瞬きをするのだけが見てとれる。 少しだけ空いた間に風だけが通り過ぎる。 揺れる髪を右手で抑え、風が止むと同時に口を開いたのだった。 「貴方を私の鳩に案内させるわけにはいけません。朱雀隊隊長を愚弄することなど、私はしかねます」 「固いな、同期の俺とでも立場の区別をつける気か?」  フリン自身、そんな意識して質問をしているわけではないが、アルテミスは考えているような素振りを見せる。 アテナやエロスとは違う会話の間に、フリンはため息を吐いてしまった。 「そんな意識をしているつもりはありません。ただ、クー・フリン様がお気に召さないようならばこの場を借り、謝ります」  少し頭を下げて、フリンを見据える。 普通に会話をすることさえ、『王室付き』には出来ないのか呆れてしまう。 「行こう」と促せば、アルテミスは踵を返し、城内へ導くように歩き出したのだった。
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