【一章】

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 王室と言えど、豪勢に飾ることをしないのが神王のいいところ。 何の装飾を施すわけでもなく、普通のドアを設けている。 フリンは着衣の乱れがないか確かめ、小さめにドアをノックした。 すると、「入れ」とだけ声がかかるのがわかるとドアを開く。 「失礼し」 「おぉ! フリン! 悪いな、呼び出して」  フリンの声を遮るような大きな声と笑顔を振り撒く神王。 神王と言う堅苦しい呼び名に比べて、親しみ安い。 民衆、部隊の連中に演説するときは厳格な雰囲気を醸し出しているのに普段はただのおじいさんなのだ。 しっかり蓄えられた髭に歳の割には豊富な髪。 白髪というよりは光沢のある気品はやはり王の証だった。 「神王様、今回の要件は?」 「そう焦るでない! 久しぶりに話すのに何を急かす!」  目尻に皺を寄せながら笑う神王。 父を知らぬ、母も知らぬフリンには神王こそが父親代わり。 他の隊長よりも身近に親しくしてくれる。 それが嬉しくもあった。 「今日はエロス、アテナと昼食の約束がありまして」  アテナと名前を出した途端、表情が厳しくなり睨み付けられる。  ゆっくり、フリンの回りを練り歩くと正面で立ち止まった。 「アテナに手を出したりしてないだろうな」 「手を出すなどと、恐れ多い。ただ、親しくさせて頂いております」 「お前はあくまでアテナの躾役だからな?! 恋仲になんてなったら泣いちゃうからさっ」 「妹としか思えませんよ。あの背伸びしたがる性格がね」 「可愛いじゃろ?! お前にはやんね!」  神王の親馬鹿話に付き合わされ、時間だけが過ぎて行く。 そして、ようやく神王が時間に気づくと申し訳なさそうに髭を撫でて見せる。 窓際に設置された大きな机と椅子。 その椅子に腰をかけると両肘を付き、顎を重ねた拳に乗せた。 小さくため息を吐き、先程の会話で見せた表情とは比べものにならないほどの神妙な面持ちをしている。 そして、フリンに視線を向けるとゆっくり口を開き始めた。
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