【一章】

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「ん、まずいな。闘技大会が始まる。悪いがクフリン、エロス。先にお暇するぞ」 「あぁ」 「頑張ってね~」  慌てて店を後にするアテナの背中を見送り、エロスと向かい合う。  エロスはフリンが何か言おうとしているのがわかったのか首を傾げて見せた。 フリンはグラスに入った水を一口飲むと、エロスに視線を据えた。 「西の森の噂を知ってるか?」 「うん、あれでしょ? 大きな鳥が出るっていう」 「具体的にはわからないのか?」 「教えてもいいけどさ」 「嫌だ」 「まだ、何にも言ってないじゃない!」  悪戯な笑みを浮かべるエロス。 同じ部隊の隊長、副隊長の位置にいるフリンとエロス。 フリンは部隊では厳しく、兵士達を鍛え、エロスは優しく教えていた。 故にエロスの方が慕われ、噂や情報はエロスの方に流れやすかったのだ。 「ドレス着て見せてよ?」 「俺は男だっ!」 「もちろん、女の子になったらだよ!」 「宿舎に戻る」 「何でも、夜になると声が聞こえるんだって。しかも、老婆のしおれた声が……」  いつも笑みを浮かべているはずのエロス。 この時は至って真剣そうに語る。 その後も神王ですら知らない話をひたすら話し続けていた。 嫌な予感しかしないが、聞けることは聞いとこうと思ったのが災いの元だったと気づく。 話しきったエロスはこの上ない笑みで俺を見つめてきたのだった。 「あれがいいな」 「断る」 「駄目だよ、話したでしょ? 西の森のこと。で、クーちゃんはそれを聞いた」 「それはお前が勝手に話しただけだろうがっ!」 「メイド服」 「いや、だから……」 「次にクーちゃんが女の子になるのがいつか、僕には大体わかってるから」 「貴様……っ!」  エロスの強引さは今に始まったわけではないが、いつも辱めに合う。 女体化するのを見計らったように部屋に来たり、衣装を持ってきたり。 副隊長としてはかなり役に立つが、他に関しては迷惑なだけだった。 「行くぞ」 「どこに?」 「闘技場だよ、アテナに怒られるだろ?」  フリンが腰を上げると、エロスも腰を上げる。 マスターに金を渡すと、店を後にし、闘技場へ続く道へと入っていった。
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