【一章】

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 蒼い空を真っ白な鳩達が美しく舞う正午の街並み。 シンボルとされた城は小高く聳え立ち、それを中心に円を描くように家屋や商店が並ぶ。 地面は煉瓦作りになり、茶色と白を斑に敷き詰めてあるのが特徴だった。 その上を馬車が走り、小さな子供、大人も老人も闊歩し、街には笑顔が溢れている。 街の人達の笑顔の中で平和の素晴らしさを感じながら歩くのがフリンの楽しみだった。 通りすがりに会釈をされ、フリンも応じて返す。 街の見回りも王国兵の課せられた仕事だったが、フリンはそれを不思議と嫌だと思わない。 むしろ、街の人達の笑顔に励まされたり、元気づけられたりするのだった。 王国兵たるもの、緊急事態になりうる故、甲冑と武器が外せない。 長く金色に輝く髪を揺らしながら歩く。 いずれ、この不協和音を奏でる甲冑を着ずにいられるようになれればと祈るばかりだった。 靴が煉瓦作りの道を鳴らす音を聞きながら、変わらない街並みを眺めて見る。 この国の名称『エデン』。 エデンの王であるゼウスが名付け、造り上げた平和な国。 その国を成すために数多もの戦が繰り広げられてきた。 しかし、エデン以外にも国があり、我が国こそはと戦や抗争は続いていたのだった。 「クーちゃん」  名を呼ばれ、振り返ると、愛らしい笑顔と整った容姿の青年が歩み寄って来る。 薄い茶色がかった髪を微かに揺らし、右手をひらひらと靡かせる姿は正に美男子だった。 「エロス、クーちゃんはやめろ。副隊長とはいえ、他の部下達への威厳がなくなる」 「いいじゃない、クーちゃんと僕の仲だもの」  王国兵達で編成される軍隊。 紅、白、翠、蒼の色分けされた部隊。 紅の軍に属するフリンと、同期のエロス。 隊長と副隊長と言う間柄とはいえ、エロスの『ちゃん』付けにフリンは幾度となく注意を払う。 しかし、その笑顔で煙に撒かれ、結局、渾名みたいになってしまったのだった。
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