【一章】

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「鎧が重くて座り込んじゃってね~、女の子座りは卑怯だよ」 「だ、黙れ。今は平気でも女の体には重すぎるんだ」  フリン自身は真剣に悩んでいるのだが、エロスからしてみれば面白いだけ。 何かにつけて、エロスがフリンを女の子にしたがるのも性格の問題以外の何物でもなかった。 「クーちゃん自身、女の子になる瞬間の違和感とかないの?」 「それがあれば多少は違うのにな」  フリンとエロスが属する『朱雀隊』の兵達には知られているのだが、他の軍『青龍隊』、『白虎隊』、『玄武隊』などの一部、隊長クラスにしか知られていない。 魔法が使えるようになる一方、防御、攻撃に欠けてしまう。 それゆえ、軍同士の繋がりが必要なのだ。 二人で街中を歩いていると、小さな花火がうち上がる。 それを見て、フリンとエロスはある会場へと向かうことに決めた。 例の『あいつ』に会いに行くため。 見てなかったとはいえ、彼女の努力を褒め称えてやろうと思ったのだった。  街の中央にある広場が『美人コンテスト』の会場。 真っ白な煉瓦のみで作られたこの場所は、祭での会場として最適なのだ。 そんな中、一際大きな人だかりが見て取れる。 賛美の声が鳴り響き、拍手や口笛も聞こえて来る。 それを見て、フリンは『あいつ』が優勝したのだろうと確信を抱く。 何せ、大会始まって以来の三連覇。 その戦果は、賛美に値するものに違いはなかった。 「クーちゃん」  エロスに手を引っ張られ、人だかりの中央に踊り出される。 そこには、小さな空間が出来ており、優勝の舞を踊る姿。 頭には小さな王冠、フリルのあしらわれた綺麗なドレスを纏うその姿からは、想像出来ないほどの力を持っていることのギャップにフリンはつい笑みが零れてしまった。 舞が終わると、また騒ぎが大きくなる。 フリンも少しだけ、拍手を贈ると街の見回りへと戻るため踵を返しかけた。 しかし、「あーっ!」と言う声と早くなる足音に足を止めて振り返る。 すると、そこには美人コンテストを優勝した『あいつ』が歩み寄ってきていたのだった。
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