【一章】

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「アテナ、納得いかぬなら、俺と手合わせするか?」 「ナメるなよ、クフリン……。私とて、数多の修行を積んだ身。その首を跳ねて私が討伐に出る! 父上に認めさせる!」  空気が張り詰めたのがわかったのか、民衆達は逃げるように散って行く。 エロスの笑顔も影を潜め、心配そうに顔を歪めた。 「手加減はしない。全力で来い」  槍を地面から抜くと、左足を前方に腰に据える。 一方、アテナは左手を突き出すと目を瞑り、何かを詠唱し始めた。 次にアテナが目を開けた瞬間、その手に凄まじい光を放つ雷の珠が浮かび、一瞬にして姿を変える。 アテナが手にした物。 双頭剣。 前後に刃を携え、真ん中に待つ部分があるという変型武器。 小回りの利くその武器は、槍を得意といるフリンの懐へと飛び込む超近距離戦闘向けというわけだった。 「クフリンよ、後悔するなよ」 「そちらもな」 「参るっ!」  同時に言葉を交わし、先に打って出たのはアテナだった。 一気に蹴り出し、フリンへ向かおうとしたとき、思わず躊躇してしまう。 何故なら、既に喉元にフリンの槍先が突きつけられてしたのだ。 「ク、クフリン……」 「どうした、俺は一歩も動いてないぞ。しかし、俺が右手を僅かでも動かせば、お前の命を消えてなくなる。アテナ、お前にはまだ無理だ。相手の動きを見ずに動こうとする癖は治らないみたいだな」  フリンの言葉にうつむくアテナ。 しかし、口元には笑みが浮かび、槍の先を握り締めたのだった。
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