戦車来訪

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 小泉ヨウは、雪が激しく吹き付ける夜の雪原の中を歩いていた。着ている服は薄く、体の震えが止まらない。しかしヨウは歩き続ける。暖かな家を追われた彼には、最期に行きたい場所があった。  やがてヨウは、雪原の中にぽつんとたたずむ教会にたどり着いた。重くて冷たい扉をなんとか押し開け、その中に入っていく。  そこには、彼が自分の命の火を吹雪にさらしてでも見たかった、ルーベンスの『キリスト降架』の絵があった。彼はその絵を見つめたまま、冷たすぎる石床の上に横になる。 「パトラッシュ、疲れたろう。僕も疲れたんだ……。なんだかとても眠いんだ………」 「私はパトラッシュではありません。天使です。キリッ!」  ヨウは夢から覚めた。
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