31人が本棚に入れています
本棚に追加
「でも今回、仕事が出来てみんな喜んでる。もちろん私もだよ。人間をさらってくるのはなかなかスリルがあって楽しかったな」
「人さらいが楽しい仕事か。なんかほんとにお前らが嫌になってきた」
ヨウは首を振りながら、また階段を登り始めた。ルシフェルもその横に並ぶ。
「まあ、そう冷たいこと言わないでよ、ヨウくん。この後君をミカエルのところに案内したら私は他の仕事に行かなきゃならないから、しばらく会えないんだよ? 寂しいね!」
「せいせいする」
ヨウはルシフェルに一瞥もくれないままそう言い、ルシフェルはそれでもやはり微笑を浮かべたままだった。
しばらく登ると、靄が薄らいできた。やっと見えてきた階段の終わりには、金の丸アーチがかかっている。
「あの向こうが大広場だよ。ミカエルが待ってる」
ルシフェルがアーチを指差しながら言う。ヨウは頷き、そこに目を向けたまま歩を進めた。
ヨウは、自分が首筋にじんわりと汗をかいているのに少し驚いた。昨日までいた冬真っ只中の世界ではありえない。"高いところ"は、春盛りくらいの気温だった。ヨウは暖かな光を感じて空を見上げたが、雲も太陽も見当たらない、澄みすぎた青空があるだけだった。その青は原色のように濃くて、作り物のような印象さえあった。
最初のコメントを投稿しよう!