未婚編

5/17
前へ
/28ページ
次へ
「貴方は、どうして――」 「え?」  首を振った彼は、奥へとまた引っ込んで行ってしまったようだ。  お湯を沸かしていたんだろうか。  少し待つと、ティーポットとカップと砂糖の瓶が乗ったお盆を持ってきてくれた。 「お腹も空いているようですね」  そんなそぶりを見せた覚えもないのに、と疑問に思いつつ、加容子は首を上下に振った。  すると、また奥へ行って、クッキーらしき焼き菓子の乗ったお盆を運んできてくれた。 「では、お話を始めましょうか」 「うん」 「ああ、食べながらで構いませんよ」 「……うん」  そんなに物欲しそうに見ていただろうか?  加容子は恥ずかしく思いながら、クッキーらしき物体を口元へ運んだ。  サクサクとした焼き菓子は、やはりクッキーだった。ただ、独特の風味があって、それがなんなのかはよく分からない。薄荷のような味だ。 「ありがとう。美味しい、です」  紅茶も啜りながら、彼を見ると、ふんわりと笑っていた。 「それは良かった。きっと喜びます」 「え、貴方が?」 「あ、いや、それは……そうですね。僕もとても嬉しく思います」  なんだそれは。  じとっと見れば、彼はあたふたしながら、話を切り替えた。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加