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ガタンと立ち上がった青年に、加容子は驚いた。
そうだ、彼も男で、力ではかなわないのだ。怒らせて良い事なんか一つもない。
「……怖がらせてしまったようですね。すみません」
「ううん。私が悪かった……です……」
目の前のこの人は何にも悪くはない。
やっぱり、この話は破談にしてもらおう。これ以上、こんなお人よしに迷惑はかけられない……。私、悪女になりたいわけじゃないし。
そう思った瞬間に、眼鏡の奥の瞳が、加容子の瞳を捉えているのが分かった。
きっと、彼以上に良い人はいないだろうけど。
「なぜ、結婚したいのですか?」
彼は優しげに見つめてくる。事情をしっかり聞いてくれるみたいだ。
そんなに他人の世話を焼いていたら、損ばかりするんではないかと、こちらが心配になってくる。
「戸籍が必要なの」
私の答えに、目の前の彼が飛び上がった。
無理もないと思う。戸籍がない人間はこの街では排除の対象になるらしいから。
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