ほとんど100cm

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振り向いた立花さんの目には、まださっきの熱が残ってた ……機嫌、悪いよね? 勇気がどっかに行っちゃったみたい その鋭い視線に、一瞬震えて俯く あたしってホントびびり… びくついたあたしを見て飽きれたのか、立花さんが小さくため息をつく 少しだけ顔をあげると、立花さんの目からゆっくり熱がひいていくのが見えた 「…何?」 優しい声だった その声が、緊張したあたしの心にじんわり溶けた気がした 「…あ、たし」 ぐぐぐっと涙が押し寄せる ヒュッと喉がなる 泣いちゃ駄目 泣くな、あたし 何で、泣く 「あた…しっ……ひっく」 分厚い眼鏡に涙が落ちてぼやける 言わなきゃ ちゃんと もう一回言わなきゃ 「……っ…」 何、もう 次から次にこぼれてくる涙を必死に拭う うざいなぁと思った 自分で自分が 本当に嫌だなぁって 『付き纏ってるんだって?』 中村君の言った トゲだらけの言葉が刺さって抜けない 今さら思い出して、傷つく 立花さんも思ったかな? やっぱり迷惑だったかな? 「あんた、さぁ」 大きい目が、あたしの小さい目を探る その目には あたしには見えない 色んなものが見えるんだと思った 「何でそんなの、してるの?」 <そんなの> 白くて、子供みたいな人差し指があたしを指す あたしの 分厚くて、ださい <眼鏡> 「目、良いくせに」 びっくりして 涙が止まった今まで 気付いた人なんて 誰もいなかったのに そうなんです あたし両目とも本当は1.5です 本当は凄く目、良いんです 立花さんがゆっくりと廊下の壁にもたれかかる けだるそうに 黒髪が日の光でキラキラ光る サラサラと綺麗な音をたてた 「そーゆーの、すごくうさんくさい」 煩くて大っ嫌いな蝉の鳴き声が 一気に遠のいた気がした 「何考えてるか分かんない」 立花さんの言葉には ごまかしがない あたしと違って 全然違って 「…あんたさぁ」 やっぱり やっぱり やっぱり 立花さんはすごいと思った 「あんな奴の事、好きなんでしょ?」 そうなんです あたし本当は<あんな奴>の事が好きなんです 背が高くて 顔のカッコイイ クラス1のモテ男 良い格好しいで 計算高くて 簡単に人を傷つける <あんな奴>の事が好きなんです 苦手なはずの、中村君が
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