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満月に照らされた紅魔館。
その妖しい建物に、ぞろぞろと
人や妖怪、神や霊も集まってきた。
幸いにもこの館はそんな人数も
平気で受け入れる大きさ。
そして、集まった幻想郷の住民は
いつもとは違う雰囲気だった。
何せ、皆してドレスに
身を包んでいるのだ。
いつも通りな訳がない。
そして、大広間に通された。
とはいえ、舞踏会など名だけの、
いつもの宴会と
あまり大した差は無い物だった。
好き放題に料理を手に取り、
ワインを飲んだりお喋りしたり。
時々音楽に合わせて踊る者もいた。
それこそ初めは
ふざけたノリが多かったが、
徐々に優雅さ、厳かな雰囲気が
漂い始めた。
少しずつ時間が回り始める。
人が、幽霊が、妖怪が。
鬼が、神が、魔法使いが。
妖精や騒霊までもが踊り出す。
まさに幻想の宴、
そんな世界が息づき、
レミリアはにっこりした。
「どうかした、咲夜?」
「いえ………風に当たりに。」
「奇遇ね。私もよ」
レミリアは心底楽しそうに笑う。
咲夜に見られないように、
横を向きながら。
「主賓がいなくて、
大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ、問題ない。
それより………」
ゆっくりと空を見上げた。
淡い色の肌が溶け込んでしまう様な、深い闇。
その頂で優しくも強い光を放つ、
丸い、丸い月。
「極上の満月ね、咲夜」
「ええ。とても素敵です」
ふっ、と満足げな声が溢れた。
永遠に幼き紅い月。
呼び名にある月を誉められることが嬉しいのか、
この雰囲気が気に召したのか。
あるいは両方かもしれない。
下のどんちゃん騒ぎはこちらには届いてこない。
時計台の弱い光と優しい月光だけが照らす屋上に二人きり。
咲夜の顔は微かに赤い。
酒でも飲んでいたのだろう。
幻想郷において、酒を飲まされることは珍しいことでもない。
なんてことを考えていると、
いつのまにかレミリアは
咲夜の手を取っていた。
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