なさけない父親

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うちには、母親は、いない。 父に、あいそを尽かし、家を出ていった。 父は、家庭が貧しかったので、小さい時から、働いていた。 なので、学校には、あまり行ってなく、字もうまく書けない。 工場で働いているが、万年、平社員である。 父は、真面目ではあるが、要領が悪く、 自分より、かなり年下の若い連中に、よく、怒られていた。 「おっさん、こんなのもできないのかよ」 「辞めちまえよ、役立たずが!」 そんな罵声を浴びせられても父は 「すいません、すいません」 と、謝ってばかりだ。 そんな、情けない父親が、嫌いであった。 時が経ち、僕も大きくなり、就職することになった。 父は「見送りに行こうか?」 と言ったが、断った。 父などに、見送りをしてほしくなかったのだ。 僕は、父のようには、絶対ならない。 そう心に誓っていた。 旅立ちの日、電車で東京に向かうことに。 電車は、走りだした。 ぼうっと、故郷の景色に別れを告げていると、 土手で父が、てぬぐいを振っている。 懸命に、懸命に、 大きく、大きく振っていた。 父なりの見送りで、あったのであろう。 それが、生きた父を見た最後であった。 父も他界し、僕も結婚して、家庭をもっている。 今は、営業の仕事。 行く先々で、頭を下げてまわっている。 家族を養う為に、今の仕事を失う訳にはいかない。 必死に喰らいついて、いくしかない。 僕の頭に、父の謝る姿が、蘇る。 父は、頭を下げたくて、下げてた訳ではなかったのだ。 家族を養う為に、必死で喰らいついていたのだ。 そう思うと、父は、情けなくなどなかったのだ。 そう思った、自分の方が情けない。 家庭を持って、初めて知る父の偉大さ。 明日の仕事は、いつもより、頑張れそうな気がした。
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