1.沙希(さき)

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体が揺れる。 落ちて行く…... 下にある地面に向かって…... 「なんで泣いてるの?」 声がする。 屋上にいた少女の声が。 ゆっくりと目を開ける。 そこには、俺の手を掴んでいる少女の姿があった。 「なんで……」 本当なら、地面に落ちているはずの俺は…... まだ屋上にいる。 少女に腕を掴まれたまま…...宙に浮いていた。 「だって、泣いてたから……」 少女の言葉で、自分の涙に気づく。 あれっ? なんで俺…...泣いてんだろ…... 苦しそうに、俺の腕を掴んでいる少女を見る。 なんで…… 俺は、柵に掴まり落ちそうになっていた体を引き上げる。 「なんで助けた?」 「同じだったから……」 同じ? 何が同じなんだ? 俺は、少女を見つめる。 「同じ?何が?」 少女の綺麗なストレートの黒髪が風でなびく。 「あなたと私は同じ瞳(め)をしてる」 同じ瞳? 俺とあんたが? 少女の目を見る。 同じなのかどうかなんて事は、わからない。 けど、少女の瞳からは何故か『悲しさ』が伝わってくる。
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