プロローグ

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深夜の病院は妙な静けさに包まれていた。 院内に飾られている壁掛け式の古い時計の針だけが、何度も何度も繰り返し一定にカチカチという音を響きかせている。 待合室の椅子に座っている工藤哲弥は時計の音を気にもせずに、ただ大人しくどこを見ているのか、一点だけを見つめていた。 時計の針はもうすぐ24時。 1日の終わりでもあり、1日の始まりでもある、この時間。 いつもなら寝ている時間だが、今日ばかりは少し違っていた。 今から新しい生命が誕生しようとしているのだ。 その新しい生命の子の父親は哲弥ということらしいのだが、本人は実感がまるで全くない。 腕時計を何度も見る哲弥は、カチカチという音を響かせている時計という存在が近くにあることはどうやら忘れているようだった。 (10月4日…か) 腕時計を見た哲弥は、3日から4日へと切り替わることを確認すると、心の中で呟いた。
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