プロローグ

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ありがちなテレビドラマでの出産シーンのひとつでこんな場面が見受けられる。 父親は不安と期待を入り混ぜて、まだかまだかと貧乏揺すりをしながら妻と子の心配をするものである。 しかし、この男の場合はテレビドラマの出産シーンとは全く違う状況にあった。 たった今、出産をしようと頑張っている女性は哲弥の元彼女の藤原香織。 別れた後に妊娠が発覚して、哲弥が知った時にはすでに妊娠7ヶ月の状態であった。 父親になることの実感が出来ぬまま、男としての責任を取る形となってしまったのだ。 哲弥にとっては期待や夢など一切ない。 ただただ不安と恐怖以外何もなかった。 逃げ出せるものならすぐにでも逃げ出したい。 何度も何度も現実を逃避してみる。 しかし現実は何ひとつ変わらない。 紛れもなく父親は彼なのである。 哲弥は院内を見渡すようにキョロキョロと辺りを見てみた。 何か動きがあるかもしれないと思ったのだが、生まれた形跡や院内の騒めきがない。 違った意味で落ちつかないのだ。
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