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ドアを閉めて、チョコのリードも取らずにそのまま手放した。
部屋に入ってベッドに倒れ込む。
さっきの言葉が頭の中でぐるぐる回る。
「"可愛いな"…」
頭の中のあの人と口の動きを合わせて口に出した。
この年齢になって初めて異性から言われた言葉。
見ず知らずの、ボールを取ってくれた茶髪の人。
顔はいまいち思い出せなかった。
「誰なんだろう…」
思いにふけっていると、「わんっ」とチョコの鳴き声が聞こえて、餌をやり忘れていたことに気付いた。
急いで下に降りて餌をあげた。
餌を食べるチョコを見ながらソファーに座って、またぼうっと考えた。
どういう人なのだんだろう。
あそこまでしてくれる人なら、とても優しい人なのかもしれない。
そう思うと心が弾んで。
でも茶髪でピアスをしていたから、もしかしたら少し不良系な人なのかもしれない。
そう思うと少し怖くて。
でもあの時も、少し怖かったんだ。
声がしたかと思って振り向けば、あの人がいて、見た目は怖かった。
でも、根はいい人だってことは分かった。
そうでもなきゃ、ボールなんて…。
「わんっ!」
はっと我に返るとチョコがこっちを見てクリクリした目でじっと見つめてくる。
「ごめんね、ぼーっとしてた。
部屋行こっか」
立ち上がって私はチョコと自室へと戻り、ベッドに横になった。
そしてまたあの人のことを考えていたら、いつの間にか寝てしまっていた。
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