君との出会い

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「お母さん、チョコの散歩行ってくるね!」 お母さんの遺影に向かって私は言った。 「気をつけてね」 微笑んだ顔はまるでそう言っているように思えた。 夕暮れ時、私は飼い犬と一緒に散歩に出た。 チョコは、小さい頃に捨てられていたところを、お父さんが拾ってきた。 可愛くて人懐っこくてちゃんと言う事も聞いてくれるいい子。 我が家に来て3年になるかな。 いつもの散歩道を歩いていると、近所の人と何人かとすれ違う。 挨拶して、時には雑談したりして、楽しんでいた。 河川敷に着いて、私はチョコに繋がっているリードを外した。 そしてポケットから小さいビニールのボールを取り出して、チョコに匂いを嗅がせた。 「いくよ、チョコ」 「わんっ!」 「それっ」 ボールを遠くに投げると、チョコはそれを追いかけて銜えて私に持ってくる。 それがすごく楽しい時間の一つで、数少ない海斗を考えない時間の一つ。 戻ってきたチョコを撫でて、もう一度ボールを投げた。 すると、ちょっと力を入れすぎたのか、川の方に行ってしまった。 「あ、早く取んなきゃ。 流されちゃう」 川のふもとまで走り、近くにあった木の棒を手にとってボールに向かってめいっぱい伸ばした。 それでもなかなか届かなくて、水をバシャバシャすると、もっと奥の方に行ってしまって。 どうしようか考えていたら、 「どうかしたんか?」 男の人の低い声が聴こえた。 その人は明るめの茶髪で、襟足が長くて、ピアスをしていて、この時期に裸足でサンダルを履いていた。 少し怖くて身構えながら、 「ボールが…」 ボールを指差してそういうと、 「あれか。 ちょっと待っとけ」 そういうと、ズボンの裾を膝まで上げて、川に入っていった。 さ、寒くないのかな…? ゆっくり流れていくボールを追いかけて、男の人はボールを手に取った。
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