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(今日こそは。)
そう意気込んで、小振りの雨の中登校する。
何も変わらない、何も起らない、いつもと同じ平凡な私の一日が始まった。
私には好きな人がいる。
彼は学校の人気者。
隣のクラスに在籍していて、彼の周りにはいつも人が溢れている。
そんな彼を私は離れたところから見ることしか出来ない。
だけど、私はそれだけでも幸せを感じることが出来る。
休み時間、廊下を何気なく見ていると、今日も彼の周りでは可愛い娘(こ)達が笑顔を振りまいている。
いつの間にか、魑魅魍魎(ちみもうりょう)に思える可愛女(かわじょ)達によるアピール合戦が始まっていたのだ。
(こんな私なんて…。)
そんな光景を見ていると、私は卑屈(ひくつ)な気持ちになってしまいそうになる。
私には、その光景が、別次元のお話に思えてしまうのだ。
地味な私。
地味な私には、あんな積極的なアピールなんて出来ないからである。
そんな中、たまに、彼とチラっと目が合う時がある。
卑屈(ひくつ)な私は、それだけでも嬉しくなってしまう。
(私はそれだけで十分だから。)
と、卑屈(ひくつ)になった時の私は自分に言い聞かせている。
キーンコーン、カーンコーンッ……
何の変化もない平凡な学校での一日。
その一日が終わった。
(雨、ひどくなってきたなぁ)
私は、カバンに荷物を詰めながら、窓から見える外の様子を眺め(ながめ)ていた。
時刻は15:45。
(急いで帰らなきゃ)
部活動をやっていない私は、4時からやっているドラマの再放送を見るために、少しむくんだ足に家路へと急ぐことを促した。
「また明日ね」
部活動へと向かう友達に挨拶を済ませ、玄関へと向かう私は、競歩のようなテンポで歩みを進めた。
そんな矢先、玄関先に立っている彼に遭遇(そうぐう)。
(ヤバイ…)
最初に私が感じたフィーリングは不安だった。
卑屈(ひくつ)になる時間がまた廻って(めぐって)きた。
私はそう直感した。
「じゃあね。」
彼は、脇を通り過ぎていく友達達に挨拶をしているようだ。
そんな彼を、私は少し離れたところから見ていた。
(どうしよう…)
私は彼の背中を見つめたまま、何も出来ずに立ち尽くしてしまった。
よく見ると、彼は傘を持ってきていないらしく、ただ、空を見つめていた。
「失敗したなぁ…。」
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