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しばらくすると、病院の入口に立っている私のもとへ、一人の男がギグルとともに歩いてくるのが見えた。
「よう、俺に何か用か?」
男は私に気がつくと、気さくに話しかける。私の同僚、トッドだ。
私が一年を通して黒いロングコートを着ているのに対し、トッドは一年中上下黒スーツにネクタイという、典型的な会社員の姿をしている。人間でいえば30代に見えるだろうか。
「突然ですまないが、頼みがあるんだ。」
私はこれまでの経過をトッドに話す。
興味深そうに話を聞いていたトッドは、なるほど、とうなずき、
「つまり、その松山って人の息子のふりをしてほしいんだな?」と確認してきた。
そのとき、トッドが着ているスーツのポケットから、何かがヒョコッと顔を出す。
「俺は反対だぜ!」
それは、黒ウサギの姿をしたトッドの助手、キースだった。ぬいぐるみのようなかわいい外見にそぐわず、性格は荒い。
「タナトス、お前死神の三大原則を忘れてねぇか?むやみに人前に姿を現すことは禁止されてるんだぜ。」
キースが得意気に言ったとき、トッドの背後に上司が現れた。
「その件については、私が許可を出せば問題ない。」
上司は、左手に持ったボールペンをクルクルと器用に回している。
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