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「俳優になれるぞ。」
私はトッドにそう囁いた。
「主人公はお前だ。」
とつけ加えると、トッドの顔色がにわかに明るくなった。
「俺が主役のドラマか!」
それまで息子役を引き受けるべきか悩んでいたトッドは、がぜんやる気になる。
こんなにうまくいくとは思わなかった。
死神には人間と同じようにそれぞれ趣味があるのだが、トッドは映画や演劇の類に目がない。相手をうまく誘導するには、相手の趣味や嗜好を把握することが第一だ。
「俺、息子役をやるよ。松山のためだ。演技には自信があるからな。」
トッドが上機嫌で胸をはる。
「じゃあ、うっかり正体をバラすことだけはないようにね。」
上司の警告に、トッドは
「まかせてください。私はプロですから。」と自信たっぷりに返答する。
「果たしてどうなることか、報告が楽しみだよ。」
上司はそう言って姿を消した。
「おい、タナトス、お前トッドの趣味を利用したな?」
有頂天になるトッドを見上げながら、キースが不機嫌そうに言った。
「お前はトッドの助手だろう。息子役をやるという彼の方針に口出しはできない。」
「ったく、トッドは映画のことになるとこれだからよ。」
キースはブツブツ文句を言っている。
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